虚構世界で朝食を

Breakfast at fiction world

執筆小話:①書き物道具、ボールペン

   昨日、ノートにぐりぐりと書いていたら、ペンのインクが出なくなった。ボールペンだ。Parkerだ。三週間前に買ったばかりだ。だから何だ、というのでもないがParkerの名誉の為に言っておくと、決して品質が悪かったわけでは全くない。今まで使ってきたものの中で一番長く続いた筆記具で、執筆を支える精神的支柱であり、相棒であり、伴侶である。多分、そこらの友人よりも数百倍長い時間を共に過ごし、本音を打ち明けられるのも、このペンあってこそ。アイコンにしているのも、このペンにあやかり、同じようにものが書けるように、という視覚的魔術を期待している……というのは大袈裟だろうか。話は少しくらい大風呂敷を広げた方が面白い。いつもそれを包み込むのに苦労するのだが。無論、小説の話だ。Parkerのペンを嫌いになる理由なんて一欠片もない。

 話を戻すと、三週間で出なくなったインクには訳があった。今まで、純正の替え芯を使用し、少なくとも二ヶ月以上は保ってきた。今回のように突然、文字が掠れ出すということは全くなかった。だからこそずっと使ってきたのだ。今回の替え芯は、他のものと何が違うのだろう? 

 取り敢えず、インクを出す為に、巷(ネット)で言われている方法は出来る限りやってみた。ボールペンの先をティッシュで拭き取り、四つ折りにしたものの上に長く線を引く。そうするとペン先の汚れは落ちるらしい。しかし掠れる。問題はここではない。次に、ドライヤーを使って十五センチほど離したところから暖風を四十秒間。いくらか出が良くなるが、しばらくすると駄目。小さなポリ袋に暖かい湯を入れて、そこにインクが出てくるまで沈める(←この辺りで筆者は既に諦観気味である)。前述と同じでアウト。インクの間に空気が詰まっているのでは? という文章を見つけ、解決法として、あの懐かしい伊東家が出てきた。輪ゴムと替え芯をセロテープで繋ぎ、ばね玩具のように、両端を持って車輪のように回す。途中でParkerに対する不敬罪のように思われ、回す手を止める。伊東四朗と食卓はどこに行ったろう。鐘は鳴らないし、インクは出ない。一体何をやっているのか。因みに、ボールペンを自転車のスポークスに付けて回すという魔女狩りの車輪刑のような方法もあったが、一度もやろうとは思わなかった。

 結局、インクが復活しなかった理由は、全部終えてから、ぼんやりと替え芯を眺めていた時に気が付いた。いつもは、某大手書店に併設された文具屋で購入するのだが、たまたま別の場所で販売しているところを見かけて、そこで購入した。買った時に、製造国の表記が普段ならFrance(仏)だが、UK(英)表記のものを見つけて珍しいと思いそちらを買った。

 

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 <写真:手前にフランス、奥に英国の表記があるのが見える>

ここでParkerについてWikiを参照。

 ・2009年 イギリスにある工場が閉鎖され、生産拠点がフランスとなる。

 

 そういうことだ。

 現在は2017年であるから、生産終了品であるはずの英国産の替え芯が約八年も売れ残っていて、それを偶然掴んでしまった、という訳である。何でもかんでも英国のものだから良い、と思う癖は止めなくてはならないが、舶来品に憧れるのは江戸時代からの常である。シャーロックとオアシスを産んだ国に、文句を言うことはない。八年前のインクで書けたことの方が驚きである。もし、パーカーの替え芯を買う時には生産国を確かめた方がいいかもしれない。以上、一件落着。Q.E.D.

 

 何だか、書きたいことが随分ズレてしまったような気もするが。話の続きは次回に。

 

 追伸:

 調べていると、伊東屋が出しているROMEOというボールペン替え芯が、パーカーと互換で、よく書けると評判らしい。早速、Amazonで購入した。届いたら、Twitterで呟くかも。

  

 Kazuma

 

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