虚構世界で朝食を

Breakfast at fiction world

「最後の挨拶 KDP第三作を発表」

 こんばんは、kazumaです。こんな風に挨拶するのはこれが最後かもしれませんね。この『虚構世界で朝食を』のブログを締めるにあたって、皆さんに最後の置き土産を持ってきました。二年遅れのプレゼントですが、受け取りたいひとは、受け取ってもらえれば嬉しく思います。KDP出版・第三作の原稿です。

 思えば、このブログをはじめた頃に描いていた未来は、当時(2017年)から二年後――つまり、今年の三月三十一日までに――作家になる、ということでした。随分と途方もない夢を見ましたが、二年後の私が、二年前の『彼』に対して、言ってあげられることはただひとつです。君の選んだ道は間違っていなかった。

 ものを書き始めてから七年経っても、言いたいことひとつ、ろくに言うことができない私ですが、それでもノートに残した青い言葉たちが羽を持ち、薄紙の上から羽ばたくその日を信じて生きてきました。他のものなんか何一つ信じられなくても、伝えたいことを伝えるべき人に届ける為に、生き延びたようなものです。

 いま私の周りには誰もいません。ひとりぼっちのワンルーム・アパートの中で、この文書を綴っています。七年前と何にも変わらないまま、部屋の外の景色だけが巡り巡っていきました。これが望んだ未来でした。端から見れば、随分と歪な結末に辿り着いたように見えるかもしれません。でも、いまのこの暮らしは、ものを書き始めた頃の自分が、これ以上望みようがないほど、望んでいたものです。私の一番好きな中編小説に、トルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』があります。主人公の作家志望の青年が冒頭、ブラウンストーンのアパートメントに越してきて、そこには自分の蔵書があり、ひとつかみの鉛筆が鉛筆立てに収まっているのを見て、こう言うのです。

 "とはいえ、ポケットに手を入れてそのアパートメントの鍵に触れるたびに、僕の心は浮き立った。たしかにさえない部屋ではあったものの、そこは僕が生まれて初めて手にした自分だけの場所だった。僕の蔵書が置かれ、ひとつかみの鉛筆が鉛筆立ての中で削られるのを待っていた。作家志望の青年が志を遂げるために必要なものはすべてそこに備わっているように、少なくとも僕の目には見えた。" 

T・カポーティティファニーで朝食を村上春樹訳 新潮文庫

 学生の頃、私はひどいぼろアパートで暮らしていました。東京に出てきて家賃が三万五千を切るような。訳あって、大学から十キロも離れたアパートを選び、誰も知り合いのいない街で暮らし、授業が終わればすぐアルバイトに出ていきました。学生時代によかった思い出は殆どありません。哀しいことばかりが目の前にありました。

 それから七年後も、特別、昔と変わった訳ではないです。雀の涙のような賃金を貰いながら働き、続けられるか分からない細々とした一人暮らしの中で、仕事が終われば、ものを書き、電車に揺られながら本を読んで暮らしています。昔と違うのは、これが自分で選んだ道だということです。学生の頃は、望んで選んだ学生生活ではありませんでした。選択肢は与えられていなかった。二十歳になる前と後で、私は別の人間になったように思います。時折、それより昔の自分を思い出すことがありますが、やっぱりいつの間にか、その懐かしき少年のような『彼』は姿を消してしまうのです。

 KDP出版をした第一作『私はあなたを探し続ける』、第二作『時計の針を止めろ』、そしてこれから発表する今作は、三作とも異なる世界観で作られていますが、追っているテーマはただひとつです。三部作、と呼んでもよいかもしれません。

 私はこの作品でプロになることを信じて物語を作りました。ですが、出来上がったものは小説と呼べるか分からない代物でした。この書き方以外に、私はものの書き方を知りませんでした。

 ただ、二十になるか、ならないかの頃に感じていた、まるで一人の人間が二つに分かれて、互いに背を向け離れていくような感覚を、その境界線上で揺れ動いていた、決してひとには伝えられなかった思いを、七年かけてようやくひとつ言うことが出来た。そういう思いがこの第三作には込められています。

 題名は『青い詩が聞こえる』(武内一馬著)です。今回の作品は、思い入れのある作品で、ほんとうに読みたいと思う人だけに読んで貰えればと考えておりますので、無料配布の予定はありません。kindle書籍の価格は300円です。Amazonにてお買い求めください。(ASIN:B07S9Z7629)

青い詩が聞こえる (一馬書房)

青い詩が聞こえる (一馬書房)

 

 

 尚、今後のオンラインでの文芸活動は未定です。独自ドメインを取得したブログの開設を考えていますが、しばらくはネット上から姿を消し、ひとりきりになります。『虚構世界で朝食を』は告知以外の更新を停止、及び、Twitterアカウント(@kazumanovel)は終了いたします。オンラインでの活動再開の目処が立ちましたら、何らかの形で報告するか、お知り合いの方にはお声がけするかもしれません。

 この作品の発表を持って、私からの最後のご挨拶とさせていただきます。またいつの日か、物語の海の中で会えたら。

 kazuma

 『いつまで経っても同じことの繰り返し。終わることのない繰り返し。何かを捨てちまってから、それが自分にとってなくてはならないものだったと分かるんだ』

 それでは、皆さん。さようなら。

 

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