虚構世界で朝食を

Breakfast at fiction world

誕生日

 今日は誕生日だった。過去形で書くと既に過ぎ去ったことか、忘れていたことのように映るが、何故か最初に思いついた一文がこれだったので、そのまま書き始めた。
 
 朝はTwitterのフォロワーさんのお祝いの言葉で目醒めた。何だか現代的な誕生日のはじまりだけれど、とても嬉しかった。自分はどちらかと云うと、友人の誕生日にそれとなくプレゼントを贈ったりするのが好きで、逆に自分が祝われることはあんまりない。二月の早生まれだからなのか、目立たないタイプだからなのか分からないが、友人からはよく忘れられている。誕生日プレゼントも、毎回、自分で買いに行っているような人間だから、特に気にしていない。むしろずっと昔に贈ったことが、時間を掛けて忘れた頃に返ってくるのが一番好きだ。滅多にないことだけれど……。
 
 ただ、自分の誕生日に決めていることがひとつだけあって、それは小説に関わるものを必ず買うということ。去年は確か、小説や個人目標の管理の為のシステム手帳を買っていたと思う。三年前は筆名入りのパーカーのボールペンを買った。
 
 そもそもこの個人的儀式(と呼んでいる)は約六年前の出来事に遡り、当時二十歳前後の私は、小説に興味を持ち始めていて、両親から誕生日にパイロットの万年筆を受け取った。当時は習作とも呼べないものをルーズリーフに殴り書きしていて、その万年筆を使っていたこともあった(現在では時々使う以外にはペン立てに差したままだ)。
 
 この辺りのことは過去の記事にも書いたので譲るとするが、細かい事情を除けば、私はどうもその万年筆で自分の小説を書く気にはなれなかった。ペン自体はとても良いのだが、自分の小説は自分の働いたお金で買ったペンで書きたかった。要するに、執筆に関わるものには極力他人を関わらせたくなかった、という結構勝手な物書きの意地だ。だから、三年前には自分で貯めたお金で、名入れのボールペンを買って、現在に至るまでずっと使っている。
 
 今年は、何にしようかと先月辺りにぼんやり考えていたのだけれど、万年筆を是非執筆に使ってみたいと思っていたので、色々調べて悩んだ末にパーカーの万年筆がやはり良いということになり、午前中に大阪で有名な万年筆の専門店にお邪魔した。
 
 入ってみると広さはそれほどないのだけれど、そこには数え切れないほどの数の万年筆がずらり。先客のビジネスマン風の方が二人おられて、待っている間に立ち話を聞いていると何と九州から来られたそうで、店内の写真を撮って楽しそうに帰って行った。
 
 私が、パーカーの万年筆のソネットを探していることを伝えると店主さんは、親切に万年筆のことを詳しく説明してくださり、少し旧い型のソネットと新しい型のソネットを並べてくれた。ショーケースから調べていた実物のペンが取り出されるのを見ると、一瞬だけ気分がオリバンダーの店にいるハリー・ポッターの気分になった(本当にそんな感じがするんですよ! ハリポタ世代なら伝わるかな笑)。書き味を何度か試しているとFのペン先(万年筆のペンの細さ)が自分に合っていることに気付き、ペン先はFで決定。旧い型のソネットは、グリップが軽かったが、新しい型のソネットは金属製(クロム?)で持った感じにある程度の重みがあって、私はその方が好きだったので少し値は張ったが新しい型を選ぶことに。
 
 するとショーケースから試し書きの為に店主さんが、鮮やかな青い万年筆に触れて取り出しているのがふっと見えました。ネットではよく見なかった色ですが、私は青色がとても好きなので、聞いてみると何と同じ型のソネットに青色があるとのこと! 元々は黒とシルバーのものを購入するつもりでしたが、足りない分のお金を下ろす為に、店主さんに待っていただき、コンビニに向かうがてら、店の外に出て深呼吸。そして吟味の末、一目惚れした青色のソネットに名入れをお願いして、購入しちゃいました。一週間後に出来上がるのが待ちきれないまま、お礼を云って店を出ました。
 
 財布は空になったんですけれども、何故か晴れ晴れとした気持ちになっていたことを覚えています。こういう買い方は間違ってないな、と思いました。せっせと働いていた時の自分が報われるような気がして。途中で、ひとり女性の方が入ってこられて、パートナーの方の為に万年筆を探しているということを店主さんに熱心に話されていました。万年筆をプレゼントしてくれるひとがいる、というのをちょっと羨ましく思ったのは、内緒です。
 
 帰る時に、携帯が一度だけ鳴りました。大学時代からの長い付き合いの友人から連絡がありました。今度また飯に行こう、私にはそれくらいが丁度いいのかもしれません。
 
kazuma
 

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